1-4.大規模修繕工事の目的

このページは、大規模修繕工事を行うと具体的にどのようなメリットがあるかを現実的に説明しています。

大規模修繕工事コンサルタントとしてお手伝いする際は、当然大規模修繕工事をするのが前提ですので基本的に問題はないのですが、修繕積立金不足で値上げをしないといけないとか、一時金を徴収しなければいけないとかいう場合、こういう基本的なところの理解をしていただくことが合意形成のための大切な一歩になります。

私のマンション管理士事務所では、そういう場合でなくても、理事会や大規模修繕工事委員の方々を対象にした勉強会でこうしたことをお話させていただくことがありますが、具体的な事例を挙げることにより、修繕に対するイメージを掴みやすくします。ここでご紹介する内容はごくごくざっくりとした内容ではありますが、こうした理解をしていただくことで、何が必要で何が不要か、より突っ込んだ検討が出来るようになります。

事故防止(コンクリート・タイルの落下等)

  • きちんと維持・管理されていないと、外壁のコンクリート片やタイルが落下して第三者に被害を及ぼす。
  • ベランダの手摺が錆びて突然壊れ、居住者が転落する。

大規模修繕でコンクリート下地のひび割れや欠損、鉄筋の爆裂などを補修し、また錆びている鉄部の錆を除去してペンキを塗りなおすことで、このような事故を防ぐことができます。

不具合の解消・予防(雨漏り、赤水、漏水等)

  • 屋上から雨漏りがして最上階の住戸の人が生活できなくなる。
  • 水道の蛇口をひねると赤水(給水管内部の錆が水に溶け出して赤い色の水になる状態)がでてくる。
  • 排水管が破損して、下の階に排水がもれてきたり、排水管が詰って汚水が室内に逆流したりする。

このような具体的な事故が発生する前に、建材や機器の耐用年数等を考慮し、大規模修繕工事として屋上防水の再施工、給水管の更正・更新、排水管の更新などを行うとこれらの事故を防ぐことができます。

耐久性の確保・延長(躯体、鉄部等)

  • ポンプやエレベーターなどの設備の場合は、日常の管理(点検や保守)を適切に行うことで、修繕や交換の時期を遅らせることが可能です。
  • しかし建物の場合は、日常の管理がなかなか難しいものです。不具合箇所が発見されても、足場がないと対処できない箇所もあったりします。また、電気や電話関連の盤、共用部分の扉、消火栓ボックスなどの鉄部についても、日常からマメに拭き掃除などをしていれば錆びの発生や進行を遅くすることができるのですがそれ程マメには実施していません。

ですから、計画的に実施する大規模修繕工事でコンクリート躯体や鉄部の修繕を行うことで建物の劣化を遅らせることができます。

美観・快適性の向上(塗装等)

  • 新築の時は、きれいな建物に気持ち良く住むことができますが、時間が経過して外壁や天井が汚れてきたり、いたるところに錆が目立つようになると住んでいても気持ちよくありません。また、きちんと管理されず汚いままのマンションでは、さらに落書きの悪戯をされたり、最悪の場合は犯罪なども発生してマンション内の秩序も乱れます。
  • 割れたガラスを交換したり、悪戯書きを消したりすることは日常の管理でできますが、汚れた外壁の塗りなおしや鉄部のペンキの一斉塗りなおしは日常の管理ではなかなかできません。

大規模修繕工事として、計画的に実施することにより、快適に生活できる美観も回復することができます。

居住性・機能性向上(改良・改善、バリアフリー、電気容量、給水システム等)

  • 大規模修繕工事の原則は、「劣化した機能を竣工当時の機能まで回復させる。」というのが主な考え方です。
  • しかし、前述のとおり、生活水準の向上、社会環境の変化、法律の変更にともない、マンションとしてそれらの変化に対応する必要があります。
  • マンションの給水システムは、昔は屋上に高置水槽を置いて、そこから各戸の飲み水を供給していましたが、現在は、水道本管から直接書く住戸にポンプで供給することが可能となっています。また年月が経って、高齢者の割合が多くなればバリアフリーなども検討しなければならなくなります。オール電化への対応や地上デジタル放送への対応、さらには将来電気自動車が主流となったときの駐車場での充電設備など考えたらきりがありません。

そのような状況への対応を検討して実施するのも大規模修繕工事の目的といえます。

まとめ

大規模修繕工事を行う目的は、「建物の美観を取り戻すため」だけではありません。

建物や設備に起因する事故を防止し、建物や設備が本来もつ機能をきちんと発揮させ、マンションを長持ちさせて、環境の変化や法律の変化に対応させ、いつまでも快適に生活できるようにするために大規模修繕工事を行うのです。

管理費削減でもとにかく安く、という場合がありますが、「汚くても我慢すればいいや。」とか「お金がないから止めてしまおう。」という次元の問題ではないのです。

次は大規模修繕工事の具体的な工事項目の説明です。